近未来超能力戦記
サイコロキャラメル


  その六

 タオ老人は夜の窓に映るしわだらけの自分の顔を見ながら、老いたなと呟いた。 禿げ上がった頭、顔の下半分を埋めつくす白い髭。 しわに隠れた2つの瞳にも、もはや精気は見られない。
 「何かおっしゃいましたか?」 奥のデスクで作業を続けていた片町が顔を上げた。 黒縁の眼鏡には、作業中のコンピュータの画面が映っている。
 「こうして、窓に映る自分を見ているとな、死相が浮かんでおるのが良く分かる。」 老人はそういうと、ククッと笑った。
 「・・・延命手術は行わないのですか? 博士。」 片町は作業を中断して、立ち上がった。 軽く黒髪を後ろになでつけると、老人の隣へ足を進めた。
 「機械化は記憶と演算能力だけで充分だよ。 ジェイドの様に脳ミソをそっくり入れ替えるのは我慢できん。」
 「司令官を呼び捨てにされない方が・・・」
 「知ってるか、片町? アイツは食事のかわりにコンセントに足の指を入れて充電するんだぞ。 アレが人間か?」
 「タオ博士。」
 「構わん、ワシに残された仕事は、死ぬだけだ。」
 老博士はそう言うと、煙草に火をつけた。 煙草の廃止は30年も前に決定されたが、この老人は一向に止める気配がない。 そもそもあの煙草はいつも、どこから手に入れるのだろうか。
 「・・・ワシは明日、香港に帰る。」老人は煙を吐きながら、窓に映る片町に話しかけた。
 「香港は壊滅状態ですよ。」
 「人間最後は故郷に帰りたくなるものだよ。」老人は夜に輝く灰色の都市を見下ろした。 「それに、ワシの様な犯罪者は、廃墟で死なねばならん。」
 「・・・博士の研究はご立派です。」片町は力強く言った。
 「・・・だが、サイコロ・キャラメルは造るべきではなかった。」老人は目を閉じた。


1998年作成
途中から初めて途中で終わるお話。

割と酷い文章だったりします。


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