the shadow of silver
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朝には目覚め、夜には眠る、ごく当たり前の生活。

ただ、彼らの空にはいつも、銀色の魚が泳いでいた。

世界は、水の中にある。

 これは、そんな星の物語。


◇ 星祭り ◇

第1章(1)

第1章(2)

第2章(1)

第2章(2)

第2章(3)

第3章(1)

第3章(2)

第3章(3)

第4章(1)

第4章(2)

第5章

第6章(1)

第6章(2)

第6章(3)

第6章(4)

第7章(1)

第7章(2)

第8章(1)

第8章(2)

第8章(3)

第8章(4)

第9章(1)

第9章(2)

第9章(3)

第9章(4)

第9章(5)








第6章・学校の中、四つの恋



 リブラが突然コルブの呼び出しを受けたのは、それから数日後のことだった。放課後、屋上へ来てくれ、カイトには伝えないように。という彼からの短い手紙が、いつの間にか机の中に入れられていた。コルブがそんな真似をするのは初めてのことだ。リブラには訳が分からないまま、それでも無視できず書き付けに従うことにした。

 屋上にはすでにコルブが来ており、黒い鉄柵のある屋上の隅に浮かんでいる。やや強い波に長い銀髪を漂わせて校庭の方を見つめていた。リブラが近づくと振り返り、軽く手招きをして呼び寄せた。

「悪いな、リブラ。急に呼び出して」

 そう言うコルブの顔に笑顔はない。リブラは気にしないでと小さく首を振った。

「カイトには気づかれなかったか?」

「うん、伝えないようにって手紙に書いてあったし。どうしたの?」

 カイトには家の都合があると断って先に教室を出た。彼は少しいぶかしげな顔を見せたが、そうと答えて内容までは尋ねては来なかった。リブラはカイトのそういうところも好きだが、嘘をついてしまった自分に対しては後ろめたい気持ちになった。

「その話なんだが……あれを見ろ」

 浮かんでいるコルブは屋上から見える校庭の一か所を指さす。リブラは鉄柵に身を乗り出して覗き込んだ。そこには学校にはあまり見られない、大人の男女が並んで歩く様子が目に入る。男の方は背が高くて体が大きくて、紳士的な立ち振る舞いをしている。女の方はずいぶん楽しそうに笑っているようだが、大きな三角定規を小脇に抱えていた。

「あれは……ラケルタ先生とスピカ先生?」

「うん。最近はもう人目もはばからず親しさを見せるようになった」

 コルブは水煙草を吹かす。先生二人が結婚するかもしれないという噂話はリブラも教室で耳にしている。噂の真偽は定かではないが、そうなれば良いなという程度に思っていた。ただ、優しいラケルタ先生と怖いスピカ先生の仲が良いのは不思議でならなかった。

「ラケルタ先生とスピカ先生って、何だか合わない気がするね」

「おれはお似合いだと思うよ」

 と、スピカ先生をよく知っているコルブは答える。そんなものかなとリブラは校庭を見下ろしていた。ラケルタ先生が水中木を指さして何か言うとスピカ先生はまた笑っている。何だか覗き見をしているような気分になったので顔を上げた。

「それでコルブ。先生たちがどうかしたの?」

「いや、それは関係ない。ただ目に付いただけだ」

 コルブも顔を戻してリブラの方を向き直る。作り物のように美しかった。

「じゃあ一体なんの用?」

 リブラがあらためて尋ねると、コルブはうんと言って水煙草を捨てた。

「実は、カイトのことなんだけど……」

「カイトがどうかしたの?」

 コルブは再びうんと答えて、しばらく口を噤む。リブラが先を促すと再びうんと答えた。

「カイトは、その、リブラも知っているように、おれのことが好きらしい」

「え、そうなの?」

 リブラは即座に返答する。コルブは大きな目を丸くさせた。

「気づいていなかったのか?」

「ぼくは、嫌っていると思っていたけど」

「あれは、嫉妬だよ」

「嫉妬って、どんなことなの?」

 リブラは素直に尋ねる。コルブは話す相手を間違えたかもしれないと考えていた。

「つまりカイトは、おれが、他の奴と仲良くするのが気に入らないのさ」

「他の奴って?」

「はっきり言うと、ピシスだよ」

「ピシス? ふぅん……」

 リブラにはやはりよく分からなかった。カイトは別にピシスが嫌いではないはずだ。ではピシスがコルブを嫌っているのだろうか。でもそれで、なぜカイトの機嫌が悪くなるのだろう。そんなリブラの考えに気づいたのか、コルブは再び口を開いた。

「そしてピシスもどうやらおれが好きらしい」

「あれ?」

 それなら、ますますなんの問題もないとリブラは思ったが、目の前のコルブを見ていると、それではどうもいけないらしい。

「そして、おれはカイトが好きだ」

 コルブははっきりと言う。胸が締め付けられそうな美少年の告白だが、リブラはただ呆然とコルブの力強い眼を見つめていた。少年の頭は混乱の極みにある。コルブは我に返って気恥ずかしさを覚える。そして、もっと分かり良い説明を考えてみたが、結局は何も思いつかなかった。

「つまりはリブラ、そういうことだ。だからカイトは、おれがピシスに会いに行くのが気に入らないんだ。でもあいつはそれをするなとは言えない。だって、おれは病気のピシスを見舞いに行っているからだ。いまのピシスに余計な心配は与えたくない。だからカイトは何も言えなくて、ただおれを嫌うことしかできないんだ」

 リブラは首を傾げながらも、とりあえずはうなずいた。

「分かるか、リブラ」

「ううん、分からない」

 リブラは眼を大きくして素直に答える。コルブはその屈託のない顔を見て真面目な顔を緩ませた。

「そうか。まあ、お前はそれでいいさ」

 リブラは何だかのけ者にされた気分がした。しかし、これまでの話はそもそもコルブ一人の考えでしかない。当のカイトがその通りとは限らないし、そうは思えなかった。

「それで、コルブはぼくに何かして欲しいの?」

「だから……あしたはカイトをここへ呼んで来て欲しい」

「そんなの、自分で呼べば良いじゃない」

「あいつはおれの頼みは聞かないんだ」

 コルブはきっぱりと返す。要するに自分が呼ばれた理由はそれだけなのかとリブラは気づいた。

「なんだか全然分からないよ」

「それは悪かった。でもこれ以上、どう説明すればいいのか分からない」

「うーん、まあカイトに伝えておくよ」

「ああ、頼むよ。きょうのことは言わなくても良いから」

「言っちゃだめなの?」

「ああ……おれの口から話すよ」

 コルブは何かを決意したような表情を見せる。事情が飲み込めないリブラもその方がいいと思った。



(第6章(4)へつづく)