「おねえさん、おねえさん!」

「……何?」

「ボク、お腹空いたよ」

「あらら。 あの人は?」

「おにいさんは雲の様子がおかしいとか言って出ていったきりだよ」

「……「そのうち何とか」って企画は?」

「おにいさんがいないとできないよ」

「困ったね」

「それよりボクはお腹が空いたよ。 おねえさん何か作ってよ」

「私が?」

「お料理できるの?」

「どうかなあ、ある程度なら、ね」

「すごいや! 何が得意なの?」

「……ダルシムかなあ」

「いや、お料理で」

「ああ、下調べの、」

「下調べ?」

「下調べの、サルベージ風」

「サルベージ風?」

「ソース固め」

「……なにそれ?」

「そんな名前のやつなら、作れるかな」

「え? あ、お料理の名前なんだ」




ハテナくんおねえさんの
楽しげな料理教室

-下調べのサルベージ風ソース固め(4人前)-


「それじゃあお願いします。おねえさん」

「頑張ってみます」

「がんばるんだ……」

「さて、まずこちらにあるのが小麦粉です」

「小麦粉だね」

「そしてこちらが逢い引きミンチ」

「字が違うよ。合挽ミンチだね」

「似たようなものです」

「そうかなあ」

「でははじめに、混ぜます

「何を?」

「小麦粉と卵黄を」

「え? あ、卵黄もあるんだね」

「混ぜてください」

「はあい」

「混ぜましたか?」

いや、ちょっと早いよ

「混ぜてください」

「どれくらい混ぜればいいの」

「もう止めてって言われるまで」

「誰に?」

未亡人に

「……難しいなあ」

「はい、止め」

「うへえ、手がベタベタだあ」

「砂漠の砂を使えばよく落ちます」

「水の方がよく落ちるよ」

「その代わり海が汚れます

「いや、そんなちょっとだよ」

「では次に、焼きます」

「うん。 何を焼くの?」

プラスチックとか

「駄目だよ! 悪い煙が出るよ!」

「じゃあサンマを焼きます」

「え? あ、サンマもあるんだ」

「秋はサンマです」

「うん、サンマはおいしいよね」

「美味しくなくてもサンマです」

「だからおいしいってば」

「焼いたら次にナスを」

ちょっと待って、まだ焼いていないよ。ていうかナスもあるの?」

「秋はナスもあります」

「いや、そうだけど」

トマス・アキナスは『神学大全』の著者です」

「そんな事言われても」

「トマス・ペインは『コモン・センス』の著者です」

「関係ないじゃない」

「コモン・センス(常識)を関係ないと?」

「いや、秋ナスと関係ないよ」

「サンマは焼けましたか?」

「うん。 こんがり焼けたよ。 次はナスだね」

ナスはもういいです

「え? もういいの?」

「顔も見たくありません」

「ナスの?」

「大根を切ります。 ハテナくんは危ないので私が切ります」

「あ、おねえさんって左利きなんだね」

「それでどれだけ苦い思いをしてきた事か」

「あ……ごめんなさい」

「右手で包丁をしっかり立てて、上から大根を落とします」

「すごい切り方だね」


ゴスッ


「切れました。何もかも

「大根だけだよ」

「それでは醤油をサンマにかけます」

「直接?」

「間接的な方が良いの?」

「……じゃあかけるよ」

かけすぎ

「わっ」

「かけりゃ良いってものでもありません」

「ごめんなさい」

「最後に、煮ます」

「煮る?」

「サンマと大根と、トゥマジルオを」

「サンマも? え? トルマジオって?」

「トゥマジルオ」

「トゥ、トゥマジルオって何?」

「さっきの、小麦粉と卵黄を混ぜたものです」

「ああ、これ。って煮るの?」

「全てを煮てください。但し愛だけは育んでください

「どれくらい煮るの?」

「3時間」

「うわ、長いね」

「とろ火でコトコト煮ます」

「はあい」

「じゃ、その間に私はシャワーを浴びてきます

「わっ、いきなりお色気展開だね」

「別に。 だってする事無いし。 火は危ないからちゃんと見ててください」

「うん。 分かったよ」

「あと、覗いたらひねり潰します

「覗かないよ」

「……」

「なんで残念そうな顔するの!?」





「……おねえさん、おねえさん起きてよ」

「……んー。なにー?」

「3時間経ったよ、起きてよ」

「……あと、6時間……」

「駄目だよ。寝過ぎだよ」

「……もー、何?」

「ほら、3時間煮たよ」

「何が?」

「え? 料理だよ」

「……ふうん」

何で他人事なの!?

「ああ、料理ね。 じゃ、とめて」

「火を?」

「この家に……」

「駄目だってば! 泊まらないで」

「しょうがないなあ、じゃ火を止めて」

「うん。止めたよー」

「ふたを開けて」

「あ、なんかできてるっぽいよ」

「そりゃできるよ。 はいこれでお皿に盛りつければ完成です」

「……ミンチは?」

「ん?」

「合挽ミンチ」

「何それ?」

え!?



「ただいまー」

「あ、おにいさんおかえりなさい!」

「おかえり」

「おや、来てたんだ」

「おにいさん! 僕達料理を作ってたんだよ」

「へえ、頑張ったんだね」

「うん。 おねえさんが教えてくれたんだ」

「それは良いことだ。 うん。 良い匂いもしている」

「おにいさんの分もあるよ!」

「良かったら、食べる?」

食べないよ。 コンビニ弁当買ってきたから」


バタンッ


「……」

「……」

「…えーっと」

「…あの人、モテないでしょ

「…さあ」








「……うわっマズっ!」

「……うん……」



[おしまい]